汚泥肥料品質向上への取組み
下水汚泥資源を活用した高品質肥料の製造
近年、世界的な穀物需要の増加や国際情勢の影響により、肥料原料の価格が上昇しています。日本の農業は肥料原料の多くを海外に依存しているため、国内資源を有効活用することが重要な課題となっています。その中で注目されているのが、下水汚泥を資源として再利用する「汚泥肥料」です。下水汚泥には窒素やリンなど植物の生育に必要な栄養成分が多く含まれており、農業資源としての活用が期待されています。
しかし一方で、下水汚泥肥料は重金属の混入や品質のばらつきなどへの懸念があり、農業分野での利用拡大の課題となってきました。こうした背景を踏まえ、肥料メーカーでは品質管理の強化や製造技術の改善に取り組み、安全性と品質の高い汚泥肥料の製造を進めています。
独自の品質基準による品質管理
下水汚泥肥料は法律上は普通肥料として扱われていますが、製造工程や品質に関する詳細な基準は必ずしも十分に整備されているとは言えません。そのため、製品の品質にはメーカーごとの差が生じる場合があります。
こうした状況に対応するため、製品品質の安定化を目的として独自の品質基準が制定されました。この基準では、窒素・リン酸・加里といった肥料成分の保証値のほか、有機物含有量や含水率、C/N比、pHなどについても管理項目を設定しています。また、重金属の含有量についても定期的な分析を実施し、安全性の確認を継続的に行っています。
発酵技術による品質の安定化
下水汚泥肥料は、好気性発酵によるコンポスト化によって製造されます。一般的なコンポスト化では、もみ殻やおが屑などの副資材を混合して発酵を促進する方法が多く用いられますが、副資材の種類や配合量によって肥料成分が変化し、品質のばらつきにつながる可能性があります。
そこで、副資材を使用せず、発酵途中のコンポストを種菌として循環利用する独自の製造方法を採用することで、微生物が働きやすい環境を維持しながら安定した発酵を実現しています。この方法では複数回の発酵工程と切り返し作業を行い、約1か月以上かけて十分に熟成させることで品質の安定したコンポスト肥料を製造しています。
安全性の確保と品質管理体制
製造された汚泥肥料については、肥料成分の分析に加え、重金属含有量の測定や植物への影響を確認する植害試験などを実施しています。分析結果では、重金属の含有量はいずれも法規制値を大きく下回っており、安全性が確認されています。
また、発酵工程の温度管理を自動化する計測システムの導入や、品質マネジメントシステム(ISO9001)および環境マネジメントシステム(ISO14001)の取得など、生産管理体制の強化にも取り組んでいます。これにより、製造工程の効率化と製品品質の安定化を両立させています。
資源循環型社会への貢献
下水汚泥を肥料として再利用する取り組みは、廃棄物を資源として循環させる「資源循環型社会」の実現にもつながります。国内資源を有効活用することで、肥料資源の安定確保だけでなく、環境負荷の低減にも貢献することが期待されています。
今後は、利用者のニーズに応じた製品形態の改良や、汚泥肥料の特性に適した施用方法の研究などを進めることで、農業分野でのさらなる利用拡大が期待されています。
研究内容の詳細
本研究の詳細な試験内容やデータについては、下記の論文をご参照ください。
出典・掲載誌
汚泥肥料品質向上への取組み
著者:茅洪新・蘭泰成・井上政義
掲載誌
資源のみち・循環のみち
Vol.62 No.755(2025年9月)
pp.57–60
